酸の輝きを果汁感と甘さへつなぐ
本記事は、ケニア・エンブ県のKianyangi FactoryによるAAウォッシュドを題材に、鮮やかな酸を残しながら、果汁感と甘さまで一杯のコーヒーの中でつなげるかを整理しています。
→ この豆の商品情報はこちら生豆情報|焙煎設計の前提
- 生産国/エリア
- Kenya|Embu County, Manyatta, Kavutiri, Kianyangi Factory
- 生産者
- Murue Farmers Cooperative Society
- 標高
- 1800m
- 品種
- SL28/ SL34
- 精製
- Washed
- 実測水分
- 10.0–10.2 %
- 実測密度
- 816–853 g/L
- スクリーン
- 約8.5 mm
1. 素材特性と選定意図
今回のKenya Kianyangi AAは、鮮やかな酸とジューシーな果実感、甘さまで素直につながるところに惹かれて選んだコーヒーです。酸の質や果汁感そのものを楽しめる、ケニアらしい良さを持ったロットだと感じました。
輸入元のカッピングコメントにはピーチ、アップル、オレンジ、ライチ、バニラなどが挙げられていました。実際に焙煎と抽出を重ねると、自店ではオレンジが中心、ライチは飲み始めに感じる明るいニュアンスとして残りました。
収穫後は当日中にパルピングし、一晩の発酵、ウォッシング、ソーキングを経て、アフリカンベッドで選別しながら乾燥されています。鮮やかな酸が鋭さだけで切れず、果汁感と甘さへつながり、そのまま余韻まで伸びていくところが、このロットの大きな魅力です。
2. 焙煎設計の狙いと方針
初回の焙煎では、ライチを思わせる明るさと、きらきらした酸が印象的に出ました。36時間前後には、ジュースやフルーツシロップを思わせるジューシーさと甘さがあり、この豆の鮮烈さを十分に感じられました。
一方、抽出条件によっては、中盤から後口を支える甘さが弱く感じられました。甘さを引き出そうと挽き目を細かくすると、濁りや収斂性も見えてきます。今回の課題は、この明るさを残しながら、ドリップでも甘さと後口がまとまる状態に整えることでした。
□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)
- ケニアらしい鮮やかな酸を残すこと
- ライチの明るさを残しながら、オレンジの果汁感へつなげること
- 酸だけを先行させず、甘さとクリーンな後口まで一杯の中でまとめること
□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)
- 550gでAAの大きな豆に必要な進行を確保しながら、明るさを残す
- 中盤で排気変更と火力変更を重ねず、熱量の下降をなだらかにつなぐ
- FC後だけを長くして甘さを作らず、その手前までの進行を整える
- デベロップメントは短めを保ち、香ばしさや丸さを前に出しすぎない
3. 焙煎プロファイル
今回は550 g/予熱215℃を基準に、ケニアAAの大きな豆に必要な熱量を確保しながら進めました。
初回は、中盤の火力変更と排気変更のタイミングが近く、その周辺でRoRの下降に滑らかさを欠く部分がありました。次の焙煎では、終点を同程度に保ちながら、中盤からFCまでの熱の流れを整える方針で修正しています。

↑初回焙煎プロファイル
↑修正後の焙煎プロファイル
※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みます。温度はAillio BulletのIBTS基準です。
□ 操作と進行のポイント
- ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
- 豆量:550 g
- 予熱:215℃
- ドラム:D9
- 火力:P9 → P8 → P7 → P6 → P5 → P4
- 排気:F2
- FC:8:06(IBTS 197.4℃)
- ドロップ:8:56(IBTS 201.0℃)
- デベロップ:0:50
- デベロップ比:9.3%
- 減少率:12.0%
□ 設計意図とRoR制御
修正では排気をF2通しとし、中盤で排気変更と火力変更が重ならないようにしました。季節による排気の変化も見ながら、熱量の下降をなだらかにつないでいます。
修正後は、ライチのような明るさが入口に残り、オレンジを思わせる果汁感と甘さがつながりやすく感じられました。今回の比較では、中盤からFCまでの熱の流れを整えたことを、重要な変更として捉えています。
4. フェーズ別ポイントと観察
各フェーズの狙いと操作を、以下に整理します。全体を通して、酸の明るさを残しながら、果汁感と甘さが分離しない進行を意識しました。
| フェーズ | 設計意図 | 実施・観察 |
|---|---|---|
| ドライ | AAの大きさを考え、必要な進行を確保する | 550g/215℃を基準に、明るさを残しながら進行。重量で熱をやや保たせる。 |
| 中盤 | 酸だけを先行させず、果汁感と甘さへつなぐ | 排気変更と火力変更を重ねず、熱量の下降をなだらかに。 |
| FC前 | 上側の明るさだけに寄せない | RoRを急に落とさず、そのままFCへ滑らかに接続。 |
| デベ | 香ばしさや丸さを前に出しすぎない | 最後に長くなるだけのデベを避ける。201.0℃のドロップに合わせるようにコントロール。 |
5. カッピング所感
□ 36時間前後
ライチを思わせる明るさと酸の輝きが最も分かりやすく、かなりジューシーな状態でした。甘さも果汁感と一体になり、酸は入口だけで切れず、飲み終わりまで長く続きます。初回の焙煎では、この時間帯が鮮烈さのピークだったと感じています。
□ 44時間前後
オレンジが中心となり、入口にはライチを思わせる明るさが少し残りました。酸は鮮やかですが、鋭さだけで切れず、そのまま果汁感と甘さへつながります。後口にもえぐさがなく、クリーンです。酸、果汁感、甘さ、余韻まで一杯の中でまとまりました。
□ 総評(初期評価)
初回の焙煎では鮮烈さそのものは強く、以降の焙煎では少し重心が下がっています。どちらかが正解で、どちらかが失敗という感覚ではありません。抽出器具によって見え方も変わるため、店ではV60でトップノートを残しながら、全体として甘さまでつながるバランスを基準にしました。
6. 推奨抽出
このロットは、酸の明るさを残しながら果汁感と甘さまでつなげるには、特徴を強く取りにいきすぎない方がまとまりやすく感じました。ホットではHARIO V60を使用していますが、穏やかな抽出を目指しています。
□ 推奨抽出(HARIO V60)
- 豆量:13g
- 湯量:210g
- 湯温:92℃
- 蒸らし:40 s
- 抽出時間:2:20前後
- 挽き目:EK43S #15.2前後
- 注ぎ方のコツ:後半ほど細く静かに注ぐ
V60ではトップノートが一番抜けがよく、オレンジを中心とした果汁感も整理して感じられました。比較としてNEOをEK43S #14.4付近で試した際は、甘さや密度を取りにいける一方で、濁りや酸のばらつき、穀物のようなノイズが出ました。NEO自体の適性を否定するものではありませんが、今回試した細かい粒度では下側まで取りすぎたと考えています。
7. まとめ
今回のKianyangi AAで印象的だったのは、鮮烈さが最も強く感じられた状態と、一杯として最もまとまって感じられた状態が、少し違っていたことです。
初回には、ライチを思わせる明るさと酸の輝きがありました。修正後は、その明るさを入口に残しながら、オレンジを中心とした果汁感、甘さ、クリーンな後口までつながる形になりました。
どちらかが正解で、どちらかが失敗というわけではありません。今回は、V60でトップノートを残しつつ、甘さまでつながる飲み心地を店の基準にしました。
ケニアらしい力強い個性を、そのまま際立たせるのか、一杯の中になじませるのか。焙煎と抽出の両面から、そのバランスを意識して選べたことが、今回の大きな収穫でした。
