素材由来のロースト香と向き合う

素材由来のロースト香と向き合う

本記事では、カッピングプロファイルを起点に、ストーンフルーツやオレンジの果実感と、後半に現れるベイクドアップル、ロースト香のニュアンスを中浅煎りでどう形にするかを整理しています。この豆の商品ページはこちら

1. 生豆情報

項目 内容
生産国/エリア Honduras/Comayagua, San Sebastián, La Peñita
農園 El Guacamole Farm
標高 約1,750 m
品種 Catuai
精製 Honey Process
生産者 Rosa Dimas Funes Macias
実測水分 9.9–10.0%
実測密度 845–856 g/L
スクリーン 約8 mm前後


□ 素材特性と選定意図

今回のホンジュラス グアカモーレは、ラインナップ全体のバランスを考えて選んだロットです。
選定で重視したのは以下の点です。
・明るさだけで終わらず、果実感がありながら最後まで雑にほどけないこと
・全体として自然にまとまっていること
・産地や品種の個性が流れの中に無理なく乗っていること

インポーターのカッピングプロファイルには、ストーンフルーツ、オレンジ、ベイクドアップル、ブラウンシュガー、ラウンドマウスフィール、スウィートフィニッシュといった言葉が並んでいます。この並びからは、果実の明るさに加えて、甘さや質感、後味まで含めた着地点が見えました。
特に印象的だったのは、主役の果実感に対して、ベイクドアップルやブラウンシュガーが支えとして置かれている構成です。ここにこの豆の性格がよく表れていると感じました。

ハニープロセスでありながら、プロファイル全体には重たさよりも整った印象がありました。果実感、甘さ、質感が自然につながる豆として、ラインナップの中で十分意味のあるロットだと判断しました。

□ 今回のテーマ:「素材由来のロースト香」

今回の焙煎の中心テーマは、素材由来のロースト香をどう扱うかということでした。
ロースト香そのものは焙煎によって生まれるものですが、品種や精製、素材の骨格によって、火が入ったときに出やすい香りの質は変わってきます。このロットで言えば、後半に見えてくるベイクドアップルや、条件によってはナッティにも訳されるような香ばしさがその代表です。

この香ばしさがうまく支えとして入ったときは、少し火の入った果実感や香ばしさが後半を支える形になり、豆の上品さが強く見えるようになります。
一方で、このロースト香が少し前に出ると印象は大きく変わります。後ろにあるはずの香ばしさが前に出ることで、ナッティに感じられたり、後半が少し浮いて見えたりします。

この豆は、果実感の後ろに少しロースト香の要素を持っていて、それが支えにも減点にもなりうるタイプです。ロースト香を抑え込むことではなく、どう調和の中に入れるか——今回はそこに向き合った焙煎でした。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎では、ストーンフルーツやオレンジの印象を、酸だけで終わらせないことを意識しました。
明るさは残したい。けれど軽く見せすぎると果実の実体が薄くなり、後半の味が分離しやすくなる。一方で、中盤後半を粘らせすぎると、甘さや厚みは出るものの、香ばしさやナッティさも露骨に見えやすくなります。

その間で、果実感・甘さ・質感・後半の収まりが自然につながる中浅煎りを狙いました。明るさを作ることよりも、素材の中にあるロースト香が支えとして馴染む位置へ整えることを意識しています。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・ストーンフルーツの果実感が、酸だけで浮かず自然な果実味として見えること
・オレンジのような明るさが、後半まで無理なくつながること
・ベイクドアップルを思わせる後半のニュアンスが、香ばしさとして勝ちすぎないこと
・なめらかな質感と甘い余韻が、上品にまとまること

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:600gとして必要な推進力は確保しつつ、攻撃的に立ち上げすぎない
・中盤:果実感と甘さの芯をつなぎ、中盤後半が粘りすぎないように進行を整える
・FC前:酸を鋭く見せすぎず、後半の香ばしさが前に出すぎない位置へ接続する
・FC後:短くまとめるのではなく、少し火の入った果実感が支えとして馴染む位置で着地させる


3. 焙煎プロファイル

最初のテストローストで見えたのは、中盤後半の粘りと、後半の香ばしさの勝ち方をどう整えるかという課題でした。
初回は全体として大きく外してはいなかったものの、中盤から後半にかけて少し平坦な帯があり、そのぶん甘さや厚みと一緒に、後半の香ばしさもやや前に見えました。これは素材の火の入りやすさ熱の抱え方もあるように感じました。

※テストロースト

次の焙煎では、全体の進行を少し前に寄せ、中盤後半が粘りすぎないように角度を整えました。終点は同じ201℃付近でも、前回よりロースト香が浮きにくく、酸の質も自然に見える形を狙っています。数値だけを見れば少し進んだ印象もありますが、カップではその進みが重さではなく、全体のまとまりとして出ることを目指しました。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みます。イエローは色だけでなく、香りと進行を含めて記録しています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:600 g
・仕上がり:527 g前後
・減少率:12.2 %
・イエロー:4分台後半前後
・FC:9:01(IBTS 197.8℃)
・ドロップ:10分台前半(IBTS 201℃前後)
・デベロップ:1分台前半
・デベロップ比:12%前後

□ 設計意図とRoR制御

今回の焙煎では、香ばしさを消すことではなく、どう支えとして馴染ませるかを主題にしています。
最初の焙煎で見えたのは、中盤後半が少し粘ることで、甘さと厚みは出る一方、後半の香ばしさもやや露骨に見えることでした。
そのため次の焙煎では、序盤から中盤にかけての流れを少し前に寄せ、6分以降が平坦になりすぎないように整えています。狙いは、明るさを強くすることではなく、果実感と甘さの後ろで自然に馴染む形を作ることでした。
結果として、酸の質が良くなり、ロースト香も味の中に溶け込みやすくなったと感じています。


4. フェーズ別ポイントと観察

今回の各フェーズでは、どこかを強く作るよりも、中盤後半の進行をどう整えるかを重視しました。果実感と甘さのつながりを保ちながら、後半の香ばしさが支えとして収まるかどうかが、全体の印象を大きく左右するロットでした。

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ 600gとして必要な推進力を作りつつ、後半で無理が出ない立ち上がりにする 序盤の推進力は確保しながらも、ピークを立てすぎず進行を作る
中盤 果実感と甘さの芯をつなぎ、中盤後半が平坦になりすぎないようにする 進行が少し粘ると後半の香ばしさが見えやすくなるため、全体の角度を整える
FC前 酸を鋭くしすぎず、後半の香ばしさが前に出ない位置へ接続する 果実感の後ろに香ばしさが収まるよう、急な段差を作らずFCへつなぐ
デベロップ 少し火の入った果実感を支えとして残しつつ、後口を整える ロースト香が前に勝つとナッティに見えやすいため、着地位置の見極めを重視

5. カッピング所感

□ 焼きたて

ストーンフルーツとりんごが隣り合っているような印象。クリーンさはあり、焼きすぎた風味もありません。ただ、果実感・甘さ・質感はまだ分離気味で、全体の焦点は合い切っていない段階でした。

□ 24時間

まだ味の焦点が少し定まりきらず、酸が前に出てこないと何を取ればいいか掴みにくい印象。果実感は見えるものの、まだ若いストーンフルーツのような散り方があり、少し粉っぽさも残りました。

□ 48時間前後

甘さと酸がなじみ始め、果実感もまとまってきました。一方で、この段階ではナッティな香ばしさが少し上がって見える場面もあり、この豆の後半の味わいがどう出るかを見極める帯でもありました。ベイクドアップルのニュアンスは独立した主役というより、後半の支えとして見える印象でした。

□ 60〜65時間 

48時間で見えていたナッティさが少し下がり、全体がより溶け合った印象に変わりました。甘さは残り、酸も馴染み、香ばしさが心地よさの側に入ってくる感覚があります。
この豆は、要素が増えていくというより、少ない要素が複雑に絡んで一つにまとまっていくタイプだと感じました。

□ 総評(初期評価)

このホンジュラス グアカモーレは、派手な個性で押すタイプではありませんが、果実感、甘さ、質感、後半の収まりがうまく揃ったときに、とても上品なバランスを見せる豆でした。

ロースト香は常にテーマとして残るものの、うまく調和に入ったときは、この豆の魅力として働きます。良い帯に入ると、フレーバー語が増えるというより、少ない要素が複雑に絡み合って一つの味として仕上がる——その意味で、扱いはやや繊細ですが、整ったときの完成度は高いロットでした。


6. 推奨抽出

このロットは、抽出によって後半の香ばしさの見え方が変わりやすい豆でした。
輪郭を強く出しすぎると、香ばしさや後半の硬さが少し前に見えやすくなります。一方で、うまく整うと、果実感・甘さ・質感が自然につながり、非常に上品な印象になります。
そのため標準としては、押し出すより、静かに整える抽出が合うと感じています。

□ 推奨レシピ(HARIO V60 / Neo)

項目 数値
豆量 13 g
湯量 210 g
湯温 92°C前後
抽出時間 2:20〜2:50前後
挽き目 中挽き(Comandante C40 約25クリック/EK43S #14.6前後)
ステア 軽く1回
落とし切り なし

□ 抽出のポイント

・V60:輪郭が見えやすい一方、条件によっては後半の香ばしさも立ちやすくなります
・Neo:後半の香ばしさがまとまりやすく、果実感と甘さのつながりが見えやすい印象
・挽き目:#14.6前後が一つの基準でしたが、0.1刻みでも印象が変わる帯に入っていました
・この豆は、強くキャラクターを作るより、調和した状態をどこで取るかを見る方が合っています


7. まとめ

今回のホンジュラス グアカモーレは、最初の印象では、果実感・甘さ・質感が自然につながる基準豆として選んだロットでした。
実際に焼いてみると、その読み自体は大きく外れていなかった一方で、後半に現れるロースト香の扱いが、この豆の印象を大きく左右することが見えてきました。
ベイクドアップルやナッティさとして見える香ばしさは、支えとして入れば魅力になり、少し前に勝つと減点にもなります。今回の焙煎では、その境目をどう扱うかが最も大きなテーマでした。
また、このロットはエイジングによってかなり印象が動きました。

経過時間 状態
24時間 まだ焦点が合いにくい
48時間 ナッティさが少し上がる
60〜65時間 ようやく調和の中に入ってくる


最終的にこの豆は、個性を前面に出すタイプではなく、少ない要素が複雑に絡み合い、調和の中で完成するタイプのコーヒーでした。素材の中にあるロースト香をどう読むか、どう馴染ませるか。その点で、今回の焙煎はかなり学びの多いロットになりました。

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CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
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