乾いた素材に、どう潤いをつくるか

乾いた素材に、どう潤いをつくるか

本記事は、Guatemala El Injerto Bourbon Washed を焙煎していく中で見えてきた、低水分ロット特有の難しさと、その中でどう甘さと丸みを残していくかをテーマにまとめています。
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1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Guatemala/Huehuetenango, La Libertad
農園 El Injerto Farm(Producer: Arturo Aguirre)
標高 1,500–2,000 m
品種 Bourbon
精製 Fully Washed(フリーウォッシュド)
クロップ
スコア
実測水分 6.9–7.2 %
実測密度 810–821 g/L
スクリーン

□ 素材特性と選定意図

低水分(6%台後半)かつ高密度(810 g/L台)のウォッシュト・ブルボン。数字だけ見ると扱いやすそうにも見えますが、実際にはこの乾いているのに芯は強い性格が、いつもの浅煎りの感覚を少しずらしてきました。
最初の試行では、きれいにまとまっているのに少し軽く感じたり、終盤を落としすぎると香味が静かになりすぎたりと、「悪くないけれど決め手がない」印象になることがありました。その中で狙ったのは、香味を派手に押し出すことではなく、赤りんご〜プルーンのような果実感と、アーモンドトフィー/ブラウンシュガーの甘さが同じ温度帯で重なる構造をつくること。水分が少ないぶん、序盤で勢いを作りすぎると表面だけが先に進みやすいため、熱をゆっくり染み込ませるように進行を整え、冷めるほどに甘さと丸みが立ち上がる方向を目指しました。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎は、乾いた素材を、熱で潤すことをテーマにしました。低水分ロットでは、単に火力を抑えればうまくいくわけでもなく、逆に終盤を落としすぎると甘さの芯まで削れてしまいます。実際に何度か焼いてみて、自分の中では「終盤の勢いをどう残すか」が一番のポイントだと見えてきました。
今回はチャージを高くしすぎず、序盤のピークを抑え、P8→P7→P6のリズムを揃えたまま中盤の厚みを積むことで、酸の明るさと甘さの層が自然に重なるポイントへ導くことを狙いました。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・赤りんご/プルーンを思わせる穏やかな果実味があり、角が立たない
・常温:ブラウンシュガー〜アーモンドトフィーの甘さが内側から伸びる
・冷めるほどにハチミツのような丸みが出て、甘く香ばしい余韻で終わる

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:ピークを作りすぎず、早めのP9→P8で表面先行を防ぐ。RoRの山を小さくして熱を均一に通す。
・中盤:P8→P7→P6のリズムを揃え、P6〜P5帯で甘さの面を形成。波打ちを作らず一本線で下げる。
・FC前:酸を明るさのまま落ち着かせる。ここで勢いを残しすぎても、逆に畳みすぎても性格が変わるため、着地の位置を丁寧に見る。
・FC後:余熱主体で整える。火力の上げ戻しは行わず、下降のまま穏やかに終えるが、落としすぎて軽くならないことを意識する。


3. 焙煎プロファイル

この焙煎は、RoRの再上昇を作らず、なめらかに下降させる設計を徹底しました。低水分ロットに対して、序盤の勢いで押し切るのではなく、中盤で熱を染み込ませるように進行を整えることで、甘さと質感の重なりを作っています。
実際には、ここに至るまでに「きれいだけれど少し軽やかすぎる」「悪くないけれど、もう少し厚みがほしい」と感じるログもありました。その差を見返していくと、FC直前の勢いと、ドロップ直前のRoRの残し方が味の印象をかなり左右していることが分かってきました。今回はその中でも、果実感と香ばしい甘さのバランスがもっとも自然に重なったラインです。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みますが、全体の熱進行は意図通りに制御されています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:600 g
・チャージ:IBTS 210°C
・開始設定:P9/F2/D9
・火力操作:P9 → P8 → P7 → P6 → P5 → P4 → P3 → P2
・排気操作:F2 → F1 →(終盤の整理)F2
・黄変:5:42(IBTS 169.2°C)
・FC:9:01(IBTS 197.5°C)
・ドロップ:10:42(IBTS 200.8°C)
・デベロップ比:15%(1:41)
・減少率:12.5%

□ 設計意図とRoR制御

序盤はP9→P8を早めに切り替え、ピーク後に自然な下降へスムーズに接続。中盤はP8→P7→P6のリズムを揃え、反応を急がせずに熱を均一に入れることで、甘さの層を作ることを優先しました。
この豆では、FC前後だけを見て調整しても遅く、実際にはその少し手前でどれだけ勢いを残すかが味の性格を決めていた印象があります。FC前は収束を丁寧に行い、再上昇は作らず着地へ。FC後は火力を上げ戻さず、余熱主体でまとめることで、香味の密度を保ったまま整える方向へ導いています。


4. フェーズ別ポイントと観察

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ ピークを作りすぎず、熱を均一に入れて中盤へ接続 低水分でも表面先行にならず、色づきは均一。初動の暴れは抑えられた。高ピークで押すより、このロットはここを静かに始めた方が後半が整いやすかった
中盤 滑らか下降で“甘さの面”を形成し、輪郭を整える P8→P7→P6のリズムが揃い、反応が痩せずに厚みが育つ印象。ここを乱さないことが、後半の甘さにつながった
FC前 明るさを残したまま酸を落ち着かせ、再上昇を作らず着地 収束は安定し、過加熱や再加速はなし。何度か試す中で、この豆はFC直前の勢いが少し違うだけで、明るさが前に出る仕上がりにも、甘さと丸みが前に出る仕上がりにも振れる感触があった
デベ 余熱主体で香味を馴染ませ、甘さの重なりを残す 短いが必要十分なデベでまとめ、冷めるほど丸みが出る方向に着地。終盤を落としすぎないことで、後味の乾きが減り、全体の説得力が増した

5. カッピング所感(初期)

□ 14–24時間

・味の立ち上がりは早く、すでにバランスは良いが、後味にわずかなガス感とピリつきが残る
・赤りんご、プルーン、アーモンドトフィー/ブラウンシュガーの甘さ
・口当たりはラウンドで、冷めるほど甘さが丸くなる方向

□ 2–3日目(ピーク)

・穏やかな果実味+甘さの重なりが明瞭に。酸は刺さらず、柔らかく心地よい、落ち着いた明るさとして残る
・ハチミツのようなまろやかさ、ナッツのニュアンス、甘く香ばしい余韻
・温度帯が下がっても崩れず、まとまりが続く。実際に飲んだ時、「これはほんまに美味しい」と素直に思えたのはこのあたりの状態だった


6. 推奨抽出

このロットは、抽出を整えるほど魅力が出やすい印象です。軽い撹拌でガス抜けを促し、注ぎ円を少し広げて全体を均し、最後は静かに終えると、甘さと余韻がきれいに伸びます。
実際、挽き目を少し動かすだけでも表情が変わり、#14.7では香ばしさが落ち着いて酸の明度が上がり、#15.0では甘さと香ばしさが前に出る印象でした。詰まりやすさが出る場合は、無理に急がず落ち方の均一さを優先するとバランスが取りやすいです。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:12 g
・湯量:200 g
・湯温:92℃(基準)
・抽出時間:2:20前後
・挽き目:中挽き(EK43S #14.7相当)
※#14.7では酸の明度が上がり、#15.0では甘さと香ばしさが前に出る


7. まとめ

エル・インヘルト ブルボン100%は、派手な香りで押し切るよりも、酸と甘さが同じ温度帯で重なる整った構造が魅力になるロットだと感じました。
水分値が低い(6%台後半)という前提があるため、水分を残してFCを迎える考え方だけで設計すると、反応の作り方がずれてしまうことがあります。実際、自分の中でも最初は「きれいに焼けているのに、何か少し違う」という違和感がありました。
そこから終盤の減速や、FC直前にどんな状態で入るかを見直していく中で、チャージを過度に上げず、序盤の勢いを抑え、中盤で熱を染み込ませるように進行を組み立てることで、ラウンドな質感と甘さの重なりを作る方向が見えてきました。
結果として、赤りんご〜プルーンの穏やかな果実味に、ブラウンシュガー/アーモンドトフィーの甘さが重なり、冷めるほどハチミツのような丸みが立ち上がる印象に。抽出でも同じ思想で均して終える方向を取ると、2:20前後でバランスが取りやすく、甘く香ばしい余韻がきれいに残りました。

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焙煎設計の全体像

CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
焙煎設計全体の考え方は Roasting Philosophy にまとめています。

 

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