甘さの重なりを狙った中煎り設計

甘さの重なりを狙った中煎り設計

本記事は果実感のある酸味と香ばしい甘さが同じ温度帯で重なる構造、冷めるほどに甘さと丸みが立ち上がる設計をテーマにまとめています。
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1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Guatemala/Huehuetenango, La Libertad
農園 El Injerto Farm(Producer: Arturo Aguirre)
標高 1,500–2,000 m
品種 Bourbon
精製 Fully Washed(フリーウォッシュド)
クロップ 最新ロット(2025年取り扱い分) /GrainPro 34.5 kg
スコア
実測水分 6.9–7.2 %
実測密度 810–821 g/L 
スクリーン

□ 素材特性と選定意図

低水分(6%台後半)かつ高密度(810 g/L台)のウォッシュト・ブルボン。一般的な「水分を残して反応を引き出す」アプローチとは前提が異なり、素材側の水分に頼ると反応の立ち上がりや質感が噛み合わない場面が出やすいロットです。
今回の狙いは、香味を派手に押し出すことではなく、赤りんご〜プルーンのような果実感と、アーモンドトフィー/ブラウンシュガーの甘さが同じ温度帯で重なる構造をつくること。水分が少ないぶん、序盤で勢いを作りすぎると表面だけが先に進みやすいため、熱をゆっくり染み込ませるように進行を整え、冷めるほどに甘さと丸みが立ち上がる設計を選びました。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎は、乾いた素材を、熱で潤すことをテーマにしました。
水分値が低いロットでは、反応を待つ時間の作り方がずれると、香味が薄く感じたり、余韻が乾いてしまうことがあります。今回はチャージを高くしすぎず、序盤のピークを抑え、P8→P7→P6のリズムを揃えたまま中盤の厚みを積むことで、酸の明るさと甘さの層が自然に重なるポイントへ導くことを狙いました。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・赤りんご/プルーンを思わせる穏やかな果実味があり、角が立たない
・常温:ブラウンシュガー〜アーモンドトフィーの甘さが内側から伸びる
・冷めるほどにハチミツのような丸みが出て、甘く香ばしい余韻で終わる

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:ピークを作りすぎず、早めのP9→P8で“表面先行”を防ぐ。RoRの山を小さくして熱を均一に通す。
・中盤:P8→P7→P6のリズムを揃え、P6〜P5帯を前倒し気味に使って甘さの面を形成。波打ちを作らず一本線で下げる。
・FC前:酸を明るさのまま落ち着かせる。再上昇は作らず、着地を優先。
・FC後:余熱主体で“整える”。火力の上げ戻しは行わず、下降のまま穏やかに終える。


3. 焙煎プロファイル

この焙煎は、RoRの再上昇を作らず、なめらかに下降させる設計を徹底しました。低水分ロットに対して、序盤の勢いで押し切るのではなく、中盤で熱を染み込ませるように進行を整えることで、甘さと質感の重なりを作っています。FC後は余熱主体でまとめ、落ち着いた明るさとしっとりした甘さが同居する中煎りに着地させました。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みますが、全体の熱進行は意図通りに制御されています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:600 g
・チャージ:IBTS 210°C
・開始設定:P9/F2/D9
・火力操作:P9 → P8 → P7 → P6 → P5 → P4 → P3 → P2
・排気操作:F2 → F1 →(終盤の整理)F2
・黄変:5:42(IBTS 169.2°C)
・FC:9:01(IBTS 197.5°C)
・ドロップ:10:42(IBTS 200.8°C)
・デベロップ比:15%(1:41)
・減少率:12.5%

□ 設計意図とRoR制御

序盤はP9→P8を早めに切り替え、ピーク後に自然な下降へスムーズに接続。中盤はP8→P7→P6のリズムを揃え、反応を急がせずに熱を均一に入れることで、甘さの層を作ることを優先しました。FC前は収束を丁寧に行い、再上昇は作らず着地へ。FC後は火力を上げ戻さず、余熱主体でまとめることで、香味の密度を保ったまま整える方向へ導いています。


4. フェーズ別ポイントと観察

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ ピークを作りすぎず、熱を均一に入れて中盤へ接続 低水分でも表面先行にならず、色づきは均一。初動の暴れは抑えられた
中盤 滑らか下降で“甘さの面”を形成し、輪郭を整える P8→P7→P6のリズムが揃い、反応が痩せずに厚みが育つ印象。波打ちは最小限
FC前 明るさを残したまま酸を落ち着かせ、再上昇を作らず着地 収束は安定し、過加熱や再加速はなし。線が細くならず、落ち着いた明るさに寄った
デベ 余熱主体で香味を馴染ませ、甘さの重なりを残す 短いが必要十分なデベでまとめ、冷めるほど丸みが出る方向に着地。後味が乾きにくい

5. カッピング所感(初期)

□ 14–24時間

・味の立ち上がりは早く、すでにバランスは良いが、後味にわずかなガス感とピリつきが残る
・赤りんご、プルーン、アーモンドトフィー/ブラウンシュガーの甘さ
・口当たりはラウンドで、冷めるほど甘さが丸くなる方向

□ 2–3日目(ピーク)

・穏やかな果実味+甘さの重なりが明瞭に。酸は刺柔らかく心地よい、落ち着いた明るさとして残る
・ハチミツのようなまろやかさ、ナッツのニュアンス、甘く香ばしい余韻
・温度帯が下がっても崩れず、まとまりが続く


6. 推奨抽出

このロットは、抽出を整えるほど魅力が出やすい印象です。軽い撹拌でガス抜けを促し、注ぎ円を少し広げて全体を均し、最後は静かに終えると、甘さと余韻がきれいに伸びます。詰まりやすさが出る場合は、無理に急がず落ち方の均一さを優先するとバランスが取りやすい印象。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:12 g
・湯量:200 g
・湯温:92℃(基準)
・抽出時間:2:20前後
・挽き目:中挽き(EK43S #14.7相当)
※#14.7では酸の明度が上がり、#15.0では甘さと香ばしさが前に出る


7. まとめ

エル・インヘルト ブルボン100%は、派手な香りで押し切るよりも、酸と甘さが同じ温度帯で重なる整った構造が魅力になるロットだと感じました。
水分値が低い(6%台後半)という前提があるため、水分を残してFCを迎える考え方だけで設計すると、反応の作り方がずれてしまうことがあります。
今回は、チャージを過度に上げず、序盤の勢いを抑え、中盤で熱を染み込ませるように進行を組み立てることで、ラウンドな質感と甘さの重なりを作る方向に寄せました。
結果として、赤りんご〜プルーンの穏やかな果実味に、ブラウンシュガー/アーモンドトフィーの甘さが重なり、冷めるほどハチミツのような丸みが立ち上がる印象に。抽出でも同じ思想で均して終える方向を取ると、2:20前後でバランスが取りやすく、甘く香ばしい余韻がきれいに残りました。

今回の記録は、低水分×高密度のウォッシュトを扱うときの自分なりの基準点になりそうです。次回以降は、同じ設計思想はおさえつつ、ドロップ温度や中盤の粘りの作り方を変えて、甘さの表情がどこまで動くかも検証していきたいと思います。

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焙煎設計の全体像

CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
焙煎設計全体の考え方は Roasting Philosophy にまとめています。

 

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