ハニーの個性をどこで止めるか

ハニーの個性をどこで止めるか

本記事は、ハニーのキャラクターを素材の明度と甘さを整えて残すことをテーマにまとめています。
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1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Costa Rica/Santa Maria de Dota, Bandera(Tarrazú)
農園 Kizuna Farm(Monte Copey Micro Mill)
生産者 Enrique Navarro Granados(Navarro family)
標高 1,950 m
品種 Yellow Bourbon
精製 Yellow Honey
包装/重量 23 kg Vacuum
実測水分 9.5 %
実測密度 829–836 g/L
スクリーン 約 7 mm

□ 素材特性と選定意図

低水分寄り(9.5%)かつ高密度(829–836 g/L)のイエローハニー。高地由来の明るい果実味を持ちながら、ハニー精製らしい蜜感と、わずかな発酵由来のニュアンスが同居しやすい素材です。
狙いは、ストーンフルーツの明度とメープルのような甘さを、糖変化で太らせすぎず、程よく輪郭のあるまま残すこと。反対に、火の当て方や抽出条件次第では酸の情報量が増えすぎたり、香りが発酵・アミノ酸系に寄って好みを分けたりしやすい印象もありました。実際に触ってみると、単純に“ハニーらしい華やかさ”として扱うよりも、どこまで個性を整えて、どこで止めるかが重要なロットだと感じています。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎は、ハニーのキャラクターを素材の明度と甘さを整えて残すことをテーマにしました。
このロットは、良い方向に振れると核果(ネクタリン〜黄桃)とメープルの甘さがきれいに伸びます。一方で、条件が合わないと酸の種類が増えすぎて玄人向けに寄ったり、香りのトーンが好みを分けたりします。実際、初期のカップでは「美味しいが好みは分かれる」という感触があり、香りに関しては発酵・アミノ酸系の影をやや強く拾う場面もありました。
そこで、IBTS温度を基準に、序盤で勢いを作りすぎず、以降は一本線の下降を優先。さらに冬場の抜けやすさも踏まえ、終盤で取り返すのではなく、仕上げ前の段階で蓄熱を残し、デベで下がり過ぎないようにする方向へ意識を寄せました。狙ったのは、個性を全部消すことではなく、ストーンフルーツとメープルの芯が見える位置に整えることです。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・ストーンフルーツの明るさが立ち、酸が尖らない
・メープル様の甘さが中域に残り、余韻が軽く伸びる
・ハニー由来の個性(発酵・アミノ酸系)は出すより整える

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:ピークを作りすぎず、反応を滑らかに立ち上げる
・中盤:波打ちを作らず、下降カーブを一本線に保つ
・FC前:再上昇を作らず、酸の着地点を静かに決める
・FC後:余熱主体で馴染ませる。上げ戻しは行わない


3. 焙煎プロファイル

この焙煎は、RoRの再上昇を作らず、なめらかに下降させる設計を徹底しました。ハニー精製の素材は、波打ちや急落が香りのクセに直結しやすいため、過剰な操作を避け、熱の進行を一定の線で繋ぐことを優先しています。
また、このロットを追う中では、冬場の空気の抜けによって終盤のRoRが細くなりやすく、トップが静かに見える傾向も確認しました。そのため、最後で辻褄を合わせるのではなく、FC前の時点である程度の仕事量を残しておくことを重視しています。今回のログは、その方向性が最も素直にまとまった基準点です。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みますが、全体の熱進行は意図通りに制御されています。
※冬場は最低気温や外気の影響で、数字以上に排気が効いて見える日がありました。今回の記録では、その季節条件も前提に含めています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:600 g
・予熱/チャージ:IBTS 215°C
・開始設定:P9/F1/D9
・火力操作:P9 → P8 → P7 → P6 → P5 → P4 → P3 → P2
・排気操作:F1 →(中盤)F2
・FC:8:24(IBTS 196.8°C)
・ドロップ:9:50(IBTS 200.3°C)
・デベロップメント:1:26(14.5%)
・減少率:12.5%(600g → 525g)

□ 設計意図とRoR制御

序盤で勢いを作りすぎず、ピーク以降は一貫した下降を維持。中盤で波打ちを増やさないことで、酸の情報量が増えすぎる方向に振れないように設計しました。FC前は再上昇を作らず、酸を落ち着いた明度に収束。FC後は余熱主体で、甘さの芯と後味の伸びを確保する方針です。
一方で、後半は静かに着地しすぎるとトップが低くなり、クセが減る代わりに良さまで薄まることもありました。そのため、終盤は止めるのではなく仕事を続けたまま静かに終えることを意識しています。


4. フェーズ別ポイントと観察

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ 過加熱を避けつつ、滑らかにピークへ接続 序盤の反応は素直。勢いを作りすぎず、次フェーズへ自然に接続
中盤 下降を一本線にし、香味の整理された核を作る 波打ちを増やさず、熱進行を安定。香りのクセが暴れない方向へ
FC前 酸の着地点を決め、再上昇を作らない 収束は安定。高域が過剰に跳ねないように静かな着地を優先
デベ 余熱主体で馴染ませ、甘さの芯を残す 甘さと明度の両立。個性は残るが、過度に強調しない方向で終了

5. カッピング所感(初期)

□ 20時間

・甘さが早い段階で出る
・やさしい発酵感(アミノ酸系のニュアンス)があるが、ポジティブ
・ストーンフルーツ+メープル様の甘さが中心

□ 38〜48時間

・クセが後退してクリーンに寄る
・一方で個性が薄まり、良さが減ったように感じる場面もある
・飲みやすさは上がるが、面白さはやや減る

□ 1週間前後

・冷めるにつれてベリー方向に触れる瞬間が出る
・香りの好みが分かれる可能性(味噌っぽいニュアンスが出る時がある)
・美味しいが好みは分かれるという評価になりやすい

□ 総評(初期評価)

・このロットは、早い段階では個性が魅力として見えやすいが、時間を置くと飲みやすさと引き換えにキャラクターが丸まる
・特に38〜48時間付近で、クセが整う一方、良さまで均されるように感じた
・そのため今回は、冷凍で止めるなら長く置くよりも24時間前後で切る方が、魅力を残しやすいと判断した


6. 推奨抽出

このロットは、細かくすると酸の情報量が増えて玄人向けに寄りやすく、粗すぎると甘さの芯が薄くなり酸が浮きやすい。店の基準抽出(92℃/硬度20/V60/13g-210ml/蒸らし40秒/総2:20〜3:00/ステア1〜2回)を土台に、メッシュで整える方向性が安定します。
実際に試すと、#14.3付近では“ミックスジュース”のように酸の種類が増え、面白さはあるものの玄人向けに寄りやすい印象でした。一方で#15.0付近では弱く、酸が浮いて見えやすく、甘さの芯が薄く感じられました。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:13 g
・湯量:210 g
• 湯温:92°C(基準)
• 抽出時間:2:30前後
• 挽き目:中挽き〜中細挽き(EK43S #14.4〜14.6相当)

□ 味が玄人寄りに振れた時の調整

・酸の種類が増えすぎた/高域が強い:#14.5〜14.6へ寄せる
・弱く感じる/酸が浮く:#14.4へ戻し、注ぎの高さ(撹拌)を弱める
・ミル清掃直後で柔らかすぎる:落とし切り(湯がほんの少し残る程度)を1回だけ加える


7. まとめ

このロットは、ストーンフルーツの明度とメープルのような甘さを軸にしながら、ハニー精製由来の個性が良くも悪くも顔を出しやすい素材でした。
焙煎では、個性を強調して派手に寄せるのではなく、RoRの波打ちを抑えて熱進行を一本線に保ち、酸と甘さのバランスを崩さないことを優先。結果として、飲みやすさと素材感の両立に寄せた中浅設計になったと感じています。
一方で、エイジングが進むとクセが落ち着く代わりに良さまで薄まったように感じるタイミングがあり、好みの分かれやすさも確認できました。実際にカップを追う中では、香りが個人的な好みと少しズレる瞬間もありましたが、味自体は十分に美味しく、だからこそどこで止めるかが大事な豆だったと思います。この記録は、ハニー精製を作り込むのではなく整えて残すための基準点として残しておきます。

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Roasting Philosophy

焙煎設計の全体像

CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
焙煎設計全体の考え方は Roasting Philosophy にまとめています。

 

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