素直なかたち

素直なかたち

本記事は、ブルンジ北部ンゴジ県タンガラのギシャ・ウォッシングステーションを題材に、インポーター(輸入元)のカッピングプロファイルを起点に、赤りんごや洋梨のような果実感をどう中浅煎りで形にするかを整理しています。
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1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Burundi/Ngozi, Tangara, Gisha WS
標高 約1,620 m
品種 Bourbon
精製 Fully Washed
生産者 周辺の小規模農家 約1,240名
実測水分 9.7–9.8 %
実測密度 841–863 g/L
スクリーン 約8 mm前後

□ 素材特性と選定意図

今回のブルンジ・ギシャWSは、コーヒー豆のラインナップ全体のバランスを考える中で選んだロット。これまでは正直なところ「焼いてみたい」という気持ちが先に立ち、使ったことのない産地や品種を軸に考えることも多くありましたが、今回に関しては、提供したいもの、全体として表現したいものを改めて見つめ直すところから始めました。

この豆は、そのラインナップ全体を静かに支えるようなものとして選んでいます。「なんとなく良い」コーヒーを言語化するような作業から、「素材の持つ明るさだけでなく、甘さや質感、余韻まできれいにつながること」を基準に、産地固有の個性がその上に自然に乗る形のコーヒーを理想として探しました。

インポーターによるカッピングプロファイルには、レッドアップル、洋ナシ、オレンジ、ミルクチョコレート、シルキーマウスフィール、スウィートフィニッシュといった言葉が並んでいます。ここから読めるのは、果実だけで終わらずきれいなつながりを感じられるところ。また、ピールやスパイスなどといった良いとも悪いとも取れるワードが少なかったことは良い判断材料になりました。この点で、今回のラインナップに加える意味がはっきり見えたと思っています。


□ 今回のテーマ:「素直なかたち」

今回のブルンジは、プロファイルをもとにそれを引き出すための焼き方にしようと思って取り組みました。水分値・密度から導き出すレシピの方針を一旦考え直し、インポーターのコメントから見える方向性を受け取る形でレシピ設計をしました。ということもあり、プロファイルをしっかり意識して選んだロットでした。

ちょうど、先日まで焼いていたグァテマラは設計の幅はあるとはいえ、水分値・密度から見える焼き方と、プロファイルから見える焼き方の中で、どこに重心を置くのかを考えさせられていました。その過程で、プロファイルという味を軸にした方針…本来であれば当たり前かもしれませんが、少し捻くれた考えを一旦捨ててみて、素直に受け止めた上で焙煎をしてみようと決めました。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎では、赤りんごや洋梨の印象を、酸だけで終わらせないことを意識しました。明るさは残したい。けれど鋭く出しすぎると果実感より酸構造が前に立つ。一方で、甘さを作ろうとしすぎると、ティーやブラウンシュガーが太くなり、赤りんごや洋梨の軽さが見えにくくなる。
その間で、果実感・甘さ・質感が自然に並ぶ中浅煎りを狙いました。焙煎で何かを強く作りにいくというより、インポーターのカッピングプロファイルにある要素が崩れずに並ぶ位置へ、素材をそっと置くようなイメージです。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・赤りんごのような明るい酸が、酸だけで浮かず果実感として見えること
・洋梨のようなみずみずしさと、シルキーな質感が残ること
・ティーライクな骨格は残しながら、太く出すぎないこと
・ブラウンシュガーのような甘さは、余韻の支えとして穏やかに残ること

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:600gとして必要な推進力は確保しつつ、攻撃的に立ち上げすぎない
・中盤:果実感と甘さの芯をつなぎ、赤りんご〜洋梨の印象を支える
・FC前:酸を鋭く見せすぎず、果実としてまとまる位置へ接続する
・FC後:短めにまとめ、ティーライクな骨格とクリーンな余韻を残す


3. 焙煎プロファイル

今回の焙煎は、個性を強く作りにいく焙煎ではなく、プロファイルにある果実・甘さ・質感が崩れずに並ぶ位置を探す焙煎でした。終点はIBTS 201.7℃。FC後は1:16、DTRは12.5%。数値だけを見ると浅煎り寄りにも見えますが、カップの印象としては、赤りんご、洋梨、ティー、ブラウンシュガーが並ぶ中浅煎りとして捉えています。

イエローは視覚的に分かりにくいタイプで、色だけでは明確に取りづらい印象でした。今回は、香りの変化と全体の進行を含めて4:43前後と判断しています。ブルンジのウォッシュドらしい明るさを保ちながら、赤りんごや洋梨の印象が酸だけで終わらないよう、FCまでの流れとFC後の短いまとめ方を重視しました。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みます。イエローは視覚的に判別しづらいロットだったため、香りと進行を含めて記録しています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:600 g
・仕上がり:524 g
・減少率:12.7 %
・イエロー:4:43前後(IBTS 161.5℃付近)
・FC:8:50(IBTS 199.1℃)
・ドロップ:10:06(IBTS 201.7℃)
・デベロップ:1:16
・デベロップ比:12.5 %

□ 設計意図とRoR制御

今回の焙煎では、プロファイルにある赤りんごや洋梨を無理に前へ出すのではなく、酸と甘さが自然につながる位置を目指しました。序盤から強く香りを立てにいくというより、焙煎量をやや増やし十分な熱量を確保しながら、中盤以降を大きく乱さずFCへ接続することを重視しています。

FC後は1:16と短めですが、これは浅さだけを狙ったというより、ティーライクな骨格やブラウンシュガーの甘さが前に出すぎないよう、果実の輪郭が残る位置で止めるためです。焼きたての段階ではストーンフルーツとりんごが隣にあるような印象があり、冷めるにつれてブラウンシュガーの甘さも見えました。焼きすぎ由来の風味はなく、狙いとしては大きく外していないと感じています。


4. フェーズ別ポイントと観察

今回の各フェーズでは、「どこかを強く作る」よりも、プロファイルにある果実・甘さ・質感が崩れずに並ぶことを優先しました。赤りんごや洋梨を前に押し出すのではなく、見えるべき位置で自然に見えるように、各フェーズの熱の入り方を整えています。

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ 600gとして必要な推進力を作りつつ、ピークを立ち上げすぎない イエローは視覚的に分かりにくい
中盤 赤りんご〜洋梨の果実感に、甘さの芯を作る 操作を最小限に大きく作り込まず、素直に下降
FC前 酸を鋭く出しすぎず、果実として見える位置へ整える 明るさを残しつつ、急な段差は作らない。最後に熱をつなぐ意識
デベ 短めにまとめ、果実感とクリーンな余韻を残す 焼きすぎ感は出さない、フレーバーが茶色くならないところを狙う

5. カッピング所感

□ 焼きたて

焼きたての段階では、ストーンフルーツとりんごが隣り合っているような印象がありました。ざらつきはまだ残るものの、クリーンさとクラリティは感じられ、焼きすぎた風味はありません。少し冷めると、ブラウンシュガーのような甘さも見えてきました。
この時点で、プロファイルにある赤りんごや洋梨へ向かう方向性は確認できましたが、まだ酸・果実・甘さ・質感は分離気味でした。

□ 24時間

りんごそのものというより、りんご酸の印象が前に出ていました。若い段階では、果実になる前の酸構造として見えることがあります。味の要素は多く、単調な酸ではありませんでしたが、赤りんごや洋梨としてまとまる前の状態だと感じました。

□ 42時間

美味しさは出てきた一方で、やや太めのティーライクな骨格が見えました。このティーは、この豆の良さでもあり、出すぎると少し重さにもつながる要素。
一方で、静かに抽出すると洋梨の印象が見えやすくなりました。抽出で荒らすとティーの太さやタンニン感が前に出やすく、静かに淹れると洋梨やシルキーな質感が見える。レンジの広さがある豆だと感じたタイミングです。

□ 49時間

酸味が落ち着き、全体がまろやかになってきました。42時間で見えていた太めのティーも少し下がり、赤りんごや洋梨、ブラウンシュガーの甘さが並びやすくなった印象です。ここでようやく、プロファイルの言葉がバラバラの要素ではなく、自然につながって見え始めました。

□ 70時間(ドリップ)

70時間時点では、ドリップでの抽出をやや細めてみました。EK43S #14.8で抽出するとざらつきが出ました。開いてきた後に細かく寄せすぎると、甘さよりもティーのタンニン感や果皮感、後半のざらつきが前に出やすいようです。標準の挽き目は#15.0前後。細かくして甘さを押し出すより、少し余白を残して、赤りんご、洋梨、ティーライクな余韻をきれいに並べる方が、この豆の魅力は見えやすいと感じました。

□ 総評(初期評価)

このブルンジ・ギシャWSは、美味しい期間の幅が比較的広い豆だと感じました。24時間では酸の輪郭、42時間ではティーライクな骨格、49時間前後では酸とティーが落ち着いてまろやかになる変化があり、それぞれの段階で意味のある表情が見えます。
良い豆は、ピークが一点だけではなく、時間の中で表情を変えながら成立することがあります。このロットはまさにそのタイプで、焙煎で無理に成立させたというより、素材の選定そのものが良かったと感じています。


6. 推奨抽出

このロットは、抽出の仕方によって印象が変わりやすい豆でした。強く攪拌したり、細かく寄せすぎたりすると、りんご酸やティーの骨格、ざらつきが前に出やすくなります。一方で、静かに淹れすぎると洋梨やシルキーさは見えますが、少し物足りなさが出る場面もありました。

そのため標準としては、完全に静かにゆっくり淹れるよりも、軽くステアを入れ、粉層を整えながらも後半は荒らしすぎない抽出が合うと感じています。細かくして押し出すより、少し余白を残して赤りんご、洋梨、ティーライクな余韻を並べるイメージです。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:13 g
・湯量:210 g
・湯温:91°C前後
・蒸らし:40 s
・抽出時間:2:30前後
・挽き目:中挽き(EK43S #14.6前後)
・ステア:なし〜軽く1回
・落とし切り:なし

コメント:
・赤りんごや洋梨、シルキーな質感をきれいに見せたい場合は、攪拌を強くしすぎない方が安定します。
・70時間時点では#14.8でざらつきが出たため、標準は#15.0前後が扱いやすい印象です。
・静かに淹れると洋梨感は見えやすくなりますが、店頭提供では物足りなさを避けるため、軽いステアがバランスを取りやすいです。
・冷めるほど酸の輪郭がまろやかにほどけ、ブラウンシュガーのような甘い余韻と、上品なティーライクな印象が残ります。


7. まとめ

今回のブルンジ・ギシャWSは、結果的に焙煎で大きく悩ませられるような豆ではありませんでした。むしろ大切だったのは、買付時に見えていたプロファイルの素直さを、焙煎の中で崩さずに形にすることだったと思います。
赤りんごや洋梨のような果実感、ティーライクな骨格、ブラウンシュガーのような甘さ。そうした要素が自然につながるように、作り込むのではなく、素材が向いている場所に置くことを意識しました。

コーヒーは、生産者、ウォッシングステーション、買付や輸入に関わる人たちの手を渡って届きます。その積み重ねを、最後に焙煎と抽出で崩さず、お客様にきちんと伝えられる形にすることも、焙煎をする人の大切な役割だと改めて感じています。
同時に、カッピングプロファイルを読み、そこから焙煎設計へつなげるための引き出しは、まだまだ増やしていく必要があります。読めた味をどう支え、どこを抑え、どう一杯のコーヒーとして整えるか。その精度を高めることが、これからの焙煎技術の大きな課題です。
今回のブルンジは、店頭ラインナップの中で、「素材の持つ明るさだけでなく、甘さや質感、余韻まできれいにつながること」を目指して選んだロットでした。今後も、ひとつひとつの豆の役割を考えながら、CYANTらしい味わいの輪郭を少しずつ形にしていきたいと思います。

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Roasting Philosophy

焙煎設計の全体像

CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
焙煎設計全体の考え方は Roasting Philosophy にまとめています。

 

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