凝縮感を緩めて、なだらかにつなぐ輪郭

凝縮感を緩めて、なだらかにつなぐ輪郭

本記事は、エチオピア・イルガチャフィー地区 チェルチェレWSのウォッシュドG1を題材に、明るい柑橘とティーライクな余韻を保ちながら、出やすいピール感をどこまで整えられるかをテーマに整理しています。
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1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Ethiopia/Sidamo, Yirgacheffe, Chelchele WS
標高 約2,000–2,200 m
品種 Heirloom
精製 Washed(G1)
クロップ 2024年10–12月収穫ロット
実測水分 9.2 %
実測密度 864–868 g/L
スクリーン 6–7 mm 前後

□ 素材特性と選定意図

このロットは、イルガチャフィーらしい明るい酸と紅茶のような輪郭を持ちながら、条件によってはピール感や軽いスパイス感が前に出やすい素材でした。
実測では低水分・高密度で、初期の熱の入り方によって果汁寄りにもピール寄りにも触れやすい印象があります。実際に焙煎を行うと、香りは派手に爆発するタイプではなく、澄んだレモン、白い花、ほのかな甘さが静かに立ち上がるような印象でした。冷めるほどにティーライクな表情が見えやすく、いわゆる「わかりやすく華やか」というより、整え方で輪郭が変わるタイプだと感じています。
今回はこの素材を、単にシャープな浅煎りとして見せるのではなく、明るい柑橘と後半に残る紅茶感をきれいにつなぐことを主眼に置きました。ピール感を完全に消すのではなく、量を設計して心地よい輪郭に収めることが重要だと考えています。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎は、チェルチェレWSの持つ明るい柑橘、穏やかなフローラル、ティーライクな余韻を活かしながら、ピール感やざらつきを前に出さないことをテーマにしました。
最初の進行では、序盤の熱量がやや前半寄りになり、レモンの果汁感よりもピール側、あるいは果実味がざらついた印象に触れやすい傾向が見えました。カップで見ると、明るさ自体はあるのに、どこか少し詰まって見える感じがあり、素直に抜けるというより押し出しが先に立つ印象でした。そこで今回は、初期ピークを抑え、進行全体を少しなだらかにしながら、FC前後で急減速させずに着地させる方向へ修正しています。
狙ったのは、明るい柑橘の印象がありながら、飲み終わりに不要な渋さが残らず、紅茶のような静かな余韻へつながるバランスです。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・レモンの酸がピールではなく果汁寄りに見えること
・白い花のような穏やかなフローラルが静かに立ち上がること
・後半は紅茶のように整い、軽いジンジャーエールのような爽やかさが残ること

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:勢いは作るが、ピークを長く引っ張らない
・中盤:RoRをなだらかに下降させ、果汁感とティー骨格をつなぐ
・FC前:段差を作らず、酸の粒度を細くするように減速する
・FC後:止めすぎず短く歩かせ、明るさを残したまままとめる


3. 焙煎プロファイル

この焙煎は、序盤のピークを抑えながら、FC前後の流れを滑らかに整えることで、ピール感を増幅させないことを重視した中浅煎り設計です。
チェルチェレWSのような高密度・低水分のウォッシュドは、前半のエネルギーが強すぎると、明るい酸が澄んだ柑橘ではなく、皮寄りの印象として見えやすくなります。今回はP9滞在を短めにし、中盤以降をなだらかに接続することで、果実味が過度に凝縮してざらついた印象に寄るのを抑え、柑橘と紅茶感が自然につながる透明感を狙いました。試作での進行では、味がやや凝縮し、濃く抽出した紅茶のように少し詰まって見えるところがありましたが、今回はその押し出しを少し緩めることで、全体をよりなだらかに整える方向へ寄せています。
FC後は完全に止めず、短めのデベロップメントで201℃台前半に着地。結果として、明るい酸を残しつつ、苦味や強すぎるピール感を出しにくい位置を探っています。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みますが、全体の熱進行は意図通りに制御されています。
※比較用に試作ログも確認しましたが、見た目の差は大きくありませんでした。今回の修正はプロファイル全体を作り替えるものではなく、前半の熱量配分をごくわずかに整える調整です。変化はログの違いよりも、カップでの詰まり方や後半のつながりに表れました。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:550 g
・チャージ:IBTS 215°C
・開始設定:P9/F1/D9
・火力操作:P9 → P8(早め)→ P7 → P6 → P5 → P4
・排気操作:F1 → F2(終盤まで維持)
・FC:8:04前後(IBTS 198.1°C)
・ドロップ:9:13前後(IBTS 201.4°C)
・デベロップ比:12.5%
・減少率:11%前後

□ 設計意図とRoR制御

試作段階では、序盤ピークがやや高く、ピール感やざらつきを伴いやすい傾向がありました。そこで今回は、P9からP8への切り替えを早めることで初期ピークを丸め、前半のエネルギー配分を修正しています。
重要だったのは、中盤以降を弱めることではなく、前半に寄りすぎた熱量の偏りを整えることでした。前の進行では、味が少し凝縮し、濃い紅茶のように詰まった印象として見えやすいところがありましたが、今回はその詰まりをやわらげることで、レモンの明るさを残したまま、全体をよりなだらかに整える方向へ寄せています。


4. フェーズ別ポイントと観察

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ 必要な勢いは確保しつつ、ピーク後は早めに整理する 進行は十分スピーディ。勢いを残しすぎず、中盤への接続も滑らかだった
中盤 RoRをなだらかに落とし、酸を果汁寄りにまとめる 波打ちは少なく、ティーライクな骨格を保ったまま進行できた
FC前 段差を避け、ピール感を増幅させない 急減速はなく、刺さる酸やざらつきを抑えやすい流れになった
デベ 短く歩かせ、明るさを残したまま着地する 苦味は出ず、柑橘と紅茶感が見えやすい着地になった

5. カッピング所感(初期)

□ 16時間

・果実味のざらつきはかなり落ち着いた
・レモンの酸は心地よく、ピール感はごくわずか
・甘さの片鱗はあるが、アフターにはまだ少し粗さが残る

□ 26〜30時間

・明るさは保たれつつ、若さが少し抜けるタイミング
・質感は整い始めるが、まだ後半のまとまりは発展途上
・この時点では短めに止めるより、もう少し見たい印象

□ 40時間前後

・柑橘と紅茶感の印象がかなり明確になる
・苦味はなく、明るい柑橘とティーライクな余韻が自然につながる
・冷めた時にもう少し丸さがあれば理想だが、かなり完成度は高い

□ 総評(初期評価)

・このロットは短時間では明るいが少し粗い方向に見えやすく、ある程度時間を置いた方が持ち味が見えやすい
・特に40時間前後で、レモンの果汁感とティーライクな余韻がもっとも素直につながった
・ピール感は完全にゼロにはならないが、量を抑えればこのロットらしい輪郭として成立しやすい


6. 推奨抽出

このロットは、メッシュを強く攻めるとピール感や後半の渋みが出やすく、逆に粗すぎると甘さに触れず芯だけが残る印象でした。実際に触ってみると、少しの差で輪郭の見え方が変わりやすく、抽出側でもどこまで拾うかの見極めが必要なタイプです。
そのため、濃く出すよりも、少し余裕を持った中挽きで後半の抽出を拾いすぎない方が、この豆の魅力は見えやすいと思います。焙煎でざらつきはかなり抑えられましたが、抽出で再びピール寄りに倒れる可能性があるため、撹拌や後半の接触時間は控えめが合います。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:13 g
・湯量:210 g
・湯温:91–92°C(基準)
・蒸らし:40 s
・抽出時間:2:40〜3:00前後
・挽き目:中挽き(EK43S #14.4〜14.6前後)
・ステア:なし〜1回

コメント:
・#14.3 付近では、レモンの輪郭は出やすいが、少しピール寄りに触れやすい印象。
・#14.7 付近では甘さに触れきらず、芯が硬く見えやすかった。
・基準は #14.4〜14.6 あたり。少し強気なメッシュでも成立するが、ステアは0〜1回程度に留めた方が後半が整いやすい。
・冷めたときのまとまりを重視するなら、湯温は91℃寄りが扱いやすい印象です。


7. まとめ

エチオピア・チェルチェレWSのウォッシュドG1は、明るい柑橘とティーライクな余韻を持ちながら、条件次第ではピール感が出やすい素材でした。今回の焙煎では、そのピール感を完全に消そうとするのではなく、どこまで心地よい輪郭として収められるかをテーマにしています。
試作段階では、序盤ピークが高いことでピール感や明確な渋さが出ましたが、P9からP8への切り替えを十数秒早めることで、前半に寄りすぎたエネルギーを整理し、レモンの良さを残したまま進行をなだらかにすることができました。結果として、短時間帯ではやや粗さが残ったものの、40時間前後で柑橘と紅茶感の輪郭が明瞭になり、苦味のないきれいな着地が見えてきました。

今回の検証で大きかったのは、ピール感を消す/残すの二択ではなく、どの位置までなら輪郭として成立するかを判断できたことでした。少し押しすぎれば詰まり、少し削りすぎれば散る。そのあいだを探る感覚は、数字以上にカップで覚える部分が大きかったと思います。チェルチェレWSは、ただ軽く焼けばきれいになる豆ではなく、整え方によってようやく明るさと余韻がつながっていく。今回の記録は、その細い幅をどう扱うかを考えるよい経験になりました。

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焙煎設計の全体像

CYANTの焙煎は、産地やプロセスの個性を尊重し、透明感・冷めた甘さ・飲み疲れしない滑らかさを軸に、輪郭を整える設計を大切にしています。
焙煎設計全体の考え方は Roasting Philosophy にまとめています。

 

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