品種らしさに寄り添った浅煎り設計 | Colombia Pink Bourbon Washed

品種らしさに寄り添った浅煎り設計 | Colombia Pink Bourbon Washed

Roasting Log|焙煎ログ記録
本記事は、Colombia Pink Bourbon(Washed)の焙煎記録です。設計の狙いと工夫、焙煎プロファイル、実際の味わいについて記録しました。今回の記録が、焙煎に取り組む方や業務用で扱う方、あるいは一杯の背景を深く知りたい方にとってヒントになれば嬉しく思います。

1. 生豆情報(焙煎設計の前提)

項目 内容
生産国/エリア Colombia/Huila, Timaná
農園 Bella Vista(Producer: Deiro Gasca)
標高 約1,800 m
品種 Pink Bourbon(PB)
精製 Washed(水洗式)
クロップ 2024年クロップ /12月入港
スコア SCA 84
実測水分 10.8–11.0 % (CoffMeterM1使用)
実測密度 788–800 g/L (CoffMeterM1使用)
スクリーン 中粒(15–16目安)

□ 素材特性と選定意図

高密度・やや高水分のウォッシュト精製ピンクブルボン。派手なキャラクター性よりも、クリーンさと全体の完成度に寄るロットです。
浅煎りに仕上げることで、赤果実の明るさがありながら輪郭はやさしい酸、ミルキーな口当たり、緑茶様の清潔な余韻が穏やかに立ち上がり、そこにコロンビアらしいべっこう飴的な甘さが下支えとして重なります。
当初はやや香ばしさが先行し、印象がぼやける課題もありましたが、試行を重ねるうちに「PBらしさ=透明感と穏やかな華やかさ」を意識するようになりました。今回はその特徴に寄り添い、遅れて開く甘さとクリアさを重視した浅煎り設計に取り組みました。


2. 焙煎設計の狙いと方針

今回の焙煎は、「品種らしさに寄り添う」ことをテーマにしました。
派手さを狙って香りを過度に前面化させるのではなく、ピンクブルボンが本来持つ赤果実の明るさを帯びた酸、やわらかな甘さ、澄んだ余韻を、後半で静かに開かせることを目指しています。高密度・やや高水分の特性ゆえ反応は出やすい一方で、少しでも波打つと質感が痩せる、その“繊細さ”に合わせた設計です。

□ 狙い(焙煎結果として目指すゴール)

・赤果実の明るさを帯びた酸がふくよかに広がり、角が立たない
・常温:ミルキーなとろみと、蜂蜜/べっこう飴のような甘さが内側からにじむ。
・緑茶様の清潔感でスッと終わる

□ 設計コンセプト(操作レベルでの方針)

・序盤:中速の立ち上がりで“厚みだけ”を整える。勢いを出し過ぎず、ピーク後は自然な下降に移行。
・中盤:カーブを一本線のまま滑らかに下げる。過度な排気で香りを削らず、反応の波打ちをつくらない。
・FC前:酸を落ち着いた明るさに収束させる。再上昇はつくらず、静かな着地を優先
・FC後:必要最小限だけ排気で“整理”し、すぐ風を落として余熱で馴染ませる。火力の上げ戻しは行わず、横ばいのまましっとり終える


3. 焙煎プロファイル

この焙煎は、RoRの再上昇を作らず、なめらかに下降させる設計を徹底しました。過剰な火力調整や急激な変化を避け、香味が自然に立ち上がるよう組み立てた浅煎り寄りのプロファイルです。FC後は余熱を主体に、質感と甘さを静かに支えるアプローチを採用。派手さではなく、品種が本来持つ酸と甘さがじんわりと開いていくことを狙いました。

※本ログは Aillio RoasTime による出力をもとに再構成しています。RoRカーブにはスムージングをかけておらず、Bullet特有のノイズを含みますが、全体の熱進行は意図通りに制御されています。

□ 操作と進行のポイント

・ロースター:Aillio Bullet(IBTS基準)
・豆量:360 g
・チャージ:IBTS 210°C(真夏は205–208°Cも可)
・開始設定:P9/F1/D9
・火力操作:P9 → P8 → P7 → P6 → P5 → P4 →(FC後)P2
・排気操作:F1 → F2 →(FC直後のみF3を20–30秒)→ F2 → 終盤F1
・FC:7:20前後(IBTS 196–197°C)
・ドロップ:ドロップ:8:45前後(IBTS 201–202°C)
・デベロップ比:15.9–16.5%

□ 設計意図とRoR制御

RoRは序盤から中盤にかけて一貫した下降カーブを維持し、波打ちや急落を避けるように設計しました。FC直前では酸を落ち着かせるために滑らかに収束させ、再上昇は作らず静かな着地へ。FC後は短時間だけF3で揮発を整理し、すぐにF2→F1へ戻すことで、余熱を活かして甘さと質感を「馴染ませる」方向へ導きました。火力の上げ戻しは行わず、構造の安定性と一貫性を優先しています。


4. フェーズ別ポイントと観察

フェーズ 設計意図 実施・観察
ドライ 立ち上がりで過加熱を避けつつピークへ自然に接続 反応は素直で色づきも均一。暴れは見られずスムーズに進行
中盤 滑らか下降で質感の核を形成 温度変化は安定し、香味の芯が育ち硬さは出なかった
FC前 刺さらない酸の着地を狙う RoRは落ち着いて収束し、再上昇なくΔTも安定
デベ 余熱主体で味を馴染ませる 排気を短時間強めに入れ整理後、静かに着地。甘さとクリーンさが両立した

5. カッピング所感(初期)

□ 24時間

・酸はやや太く、温度帯で印象変化が少ない
・赤果実、さくらんぼ、レモン、ほんのりアプリコット
・口当たりはミルキー、滑らか

□ 2–3日目(ピーク)

・刺さらない明るい酸+べっこう飴様の甘さ
・口当たりはミルキー〜軽いとろみ、緑茶の様な清潔感
・コロンビアらしい赤りんごの皮やハーブの陰影も静かに同居


6. 推奨抽出

抽出液に密度があるので、さっと淹れるとバランスがとりやすい。基準の挽き目よりもやや荒目の方で調整すると良い。

□ 推奨抽出(HARIO V60)

・豆量:13 g
・湯量:210 g
• 湯温:91°C(基準)
• 抽出時間:2:30前後
• 挽き目:中挽き(EK43S #15.0相当)


7. まとめ

このロットは「ピンクブルボンらしさ」に寄り添った設計の結果、赤果実の明るさを帯びた酸・ミルキーな質感・べっこう飴的な甘さが、派手さに流されず静かに調和しました。  

最初の試行では、香ばしさが強く出たり、ピークが早く落ちてしまったりと、どこか掴みどころがない印象で苦労しました。しかし焙煎を重ねる中で、らしさとは「爆発的な個性」ではなく、「透明感と安定したバランス」にあると気づけたと思います。

今回の設計では、RoRの整のった流れと余熱主体のデベを意識することで、熱い時から冷めるまで破綻せず、どの温度帯でもすっと飲み進められる仕上がりになったと感じています。  実際に飲んでみると、ピンクブルボンらしい酸は線が太くても刺さらず、常温に落ち着く頃にはミルキーさと甘さが静かに重なり、最後は緑茶のように清潔な印象で切れていきます。その流れをつくれたことが、この豆にとっての“正解”に近づけた実感でした。  

今回の記録は、PBウォッシュトを扱うときの自分なりの基準点になりそうです。今後はナチュラルやハニーのピンクブルボンなどとも比較しながら、さらに品種としての幅を探っていきたいと思います。

Back to blog
  • Products Item

    製作物

Real Shop

実店舗

CAFE CYANT | カフェシヤント 住所:543-0002 大阪府大阪市天王寺区上汐5-7-1 営業時間:11:00-18:30 定休日:月曜日・火曜日 テイクアウト可能 Address:Harouemachi 1f,5-7-1 Ueshio,tenouji-ku,osaka,japan,543-0002 Opening hours:11:00-18:30 Closed on Mondays&Tuesdays最寄駅:大阪メトロ「四天王寺前夕陽ヶ丘」①番出口より徒歩5分 ※近鉄上本町駅、大阪メトロ「谷町九丁目」からもアクセス可

Google Map